Callibes

アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』の読書録

《アーサー・C・クラーク(著)、福島 正実(訳)(1979)『幼年期の終わり』早川書房》の読書録です。


ある日突然現れた宇宙人と人類との何世紀にも渡る交流と人類の帰着、というのがこの小説のあらすじです。

存在論的な視点で楽しめるSF小説の一つです。とはいえ小難しい抽象的な話は大してありません。 読み終わったあと、人類と宇宙人両方の立場から考えてみると、それぞれ違った感慨があります。それがこの本の骨子であり魅力のひとつだと思います。

比較的短命の人類と長命の宇宙人の話なので、話は重要な年代毎にエピソードが描かれます。多少ドラマティックなシーンはありますが、一貫した個人の視点から語られないため、物語そのものへの没入感はあまりないと感じられません。その点に小説の面白さを求めるのであれば、多少退屈に思うかもしれません。

SF小説としてはかなり有名な小説であるかと思いますが、実際に手にとり読む気になったのはつい最近のことです。フロム・ソフトウェアのゲーム『ブラッドボーン』のストーリーおよび設定の一部が、この小説に依拠しているらしいという話を知り、好奇心を持ったからです。


ネタバレを含むあらすじとしては、

人類は圧倒的なテクノロジーと知性を持つ宇宙人の働きかけにより、戦争とその原因となるあらゆる問題を解消され、初めて世界的に平和と呼べる時代を迎えました。

宇宙人は人類から「オーバーロード」と呼ばれ、感謝と敬畏を受けていましたが、半世紀以上もの間、彼らの乗ってきた宇宙船から姿を現しませんでした。

約束の日、人々の見守る中、その場に居合わせた群衆の中からオーバーロードによって選ばれた子どもたちの手に引かれて現れた彼の容姿は、前時代の人類が憎み恐れるべき象徴、なんと悪魔そのものの姿でした。

しかし、オーバーロードたちに人類への悪意や欺瞞はありませんでした。ただ、彼らでさえ遠く及ばない大いなる存在の意思に従い、彼らの目的を遂行していたのです。

という感じです。

宇宙人、オーバーロードの姿が悪魔であったというのは驚愕しますし、ビジュアル的にも目立ちますが、この小説にとってはあまり重要なことではないと感じます。かといって、はっきりした哲学を見出すことも少し難しい。ただ、設定がとても面白く、思索を誘うテーマが多く含まれているので、その意味ではかなり楽しめる小説だと思いました。


商品情報はこちら。