高橋克彦編『日本 の名随筆 別巻64 怪談』の読書録
《高橋 克彦(編)(1996)『日本の名随筆 別巻64 怪談』作品社》の読書録です。
34 の作品からなる怪談随筆集。目次は下記の通り。
No. | 著者 | 作品名 |
---|---|---|
1 | 薄田 泣菫 | 幽霊の芝居見 |
2 | 岡本 綺堂 | 魚妖 |
3 | 長谷川 伸 | 幽霊を見る人を見る |
4 | 大佛 次郎 | 西洋の怪談 |
5 | 日夏 耿之介 | 吸血鬼譚 二 |
6 | 佐藤 春夫 | 怪談 |
7 | 志賀 直哉 | 怪談 |
8 | 金子 光晴 | 怪談のこと 私の好きな幽霊奇譚 |
9 | 永井 龍男 | 死霊・生霊 |
10 | 三浦 朱門 | 遠藤の布団の中に…… |
11 | 吉行 淳之介 | 歯を抜く |
12 | 澁澤 龍彦 | 都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト |
13 | 豊島 与志雄 | 影 |
14 | 室生 犀星 | しゃりかうべ |
15 | 泉 鏡花 | 妖怪年代記 |
16 | 小泉 八雲 | 蠅のはなし |
17 | 内田 百閒 | 短夜 |
18 | 柳田 國男 | 妖怪談義(抄) |
19 | 江馬 務 | おばけの歴史(抄) |
20 | 宇野 信夫 | 怪談劇について |
21 | 池田 彌三郎 | 異説田中河内介 |
22 | 水木 しげる | お化けは実在する |
23 | 稲垣 足穂 | 黒猫と女の子 |
24 | 横尾 忠則 | 母の幽霊と猫 一九七四年五月五日午前三時三七分=自宅 |
25 | 三浦 哲郎 | 幽霊 |
26 | 箙田 鶴子 | 怪談・寺の裏 |
27 | 吉田 満 | 霊の話 |
28 | 高田 宏 | 山の家で或る朝 |
29 | 別役 実 | 湿地帯 |
30 | 岩川 隆 | 現代人の怪奇・幽霊譚 |
31 | 土屋 嘉男 | 三つの謎(その一) |
32 | 中島 らも | 心霊写真の謎 |
33 | 小池 真理子 | 心霊学の不思議 |
34 | 高橋 克彦 | 生霊 |
うち、いくつかはすでに読んだこともあるが、各氏の怪談怪異に対する姿勢や態度をざっと概観できるので面白いと思う一方、随筆の本質的に伝聞の客観性が表れやすく、ややもすると怪談の率直な恐怖体験を損ないがちな点は否めない。
いくつかは随筆ではなく、例えば室生犀星の「しゃりかうべ」や内田百閒の「短夜」は小説の体裁になっている。彼らが怪談怪異をどのように捉え、創作に取り込んだか、という作家論的な見方であれば随筆とともに編まれていてもさほど違和感はないし、全体的なバランスはかえって取られている。
怪談などの語り物は、その時空にあった色を添えて語られるものであり、民俗学的な好奇心でそれぞれの作品を読むことも面白い足掛かりとなる。
土屋嘉男「三つの謎(その一)」では、いわゆる「のっぺらぼう」に遭遇した主人公の祖母がそれを見た途端に「ワーッ、オビンズルだあ! 逃げよう!」と叫ぶ。「オビンズル」とは「賓頭盧(びんずる)」のことで、釈迦の弟子として知られ、日本では彼の像を置くお堂が各地で建てられ、この像をなでると病が治ると信ぜられ、あちこちを撫でられた結果すり減り、顔も凹凸のないのっぺらぼうになってしまっていることがある。「オビンズル」と感知した所以であり、その土地その時代の人々の生活を知る手立てとなっていることが実に面白い。
内田百閒の「短夜」などはそもそもが「三本枝のかみそり狐」などとして知られる昔話をほぼそのまま翻案したようなもので、百閒が書く夢を題材とした作品群同様に息の詰まるような重苦しさと水の中を歩くような不自由さが、断面的な描写によって表現されている。
室生犀星の「しゃりかうべ」は初めて読んだが、私にとってはとても懐かしく良いものだった。『杏っこ』を読んだ時に思ったが、近代作家で一番美しい文章を書く人であると確信している。流麗な文体で書かれた哲学的な問答を怪異と交えるような話で、その怪異的な存在は、美しい詩的表現によって人の営みの中で発露する苦しく儚く物悲しい抒情に昇華されている。