宿野かほる『ルビンの壷が割れた』の読書録
《宿野かほる(著)(2020)『ルビンの壺が割れた』新潮文庫》の読書録です。
ある中年の男性がフェイスブックで昔関係を持っていた女性のアカウントを見つけてメッセージを取るところから始まる。
男性は紳士的で、やがて女性の方もメッセージを返し、文通のようなやりとりが続けられる、というもの。
読者は他人のやりとりを覗き見るような気持ちでちょっとした罪悪感を感じながら経過を追っていると、やりとりは彼らの思い出話しから告白や詰問に至り、次第に異様な様相を呈していく。
文章はメッセージのやり取りの体裁でつづられているが、お互いに中年であり、やや距離を置いた丁寧な文体であるため、破綻なく読みやすい。
この小説の面白いところは話が進むにつれて衝撃が膨らみ続けるところで、最後には風船が破裂した後の様に、静寂のなかで心がさざ波立っていることを感じる。
細かいことを言えばこの構成を維持するために、内容が用意周到すぎたり、唐突なところはあるが、ここまで自然な体裁を保てていることは驚異的ですらある。