原浩『火喰鳥を、喰う』の読書録
《原 浩(著)(2022)『火喰鳥を、喰う』KADOKAWA(角川ホラー文庫)》の読書録です。
妻とともに帰省した主人公の実家に、時を同じくして戦時に命を落とした大叔父に当たる「貞市」の手記が戦地から送られ、その「貞市」の名が刻まれていたはずの墓石の銘が何者かによって削られた事件を皮切りに、主人公の周りで怪異や時空のゆがみが起こり始める、という粗筋。
ホラーミステリーとしてはよくできた作品だが、恐ろしさを求めるのであれば期待はできない。
全体的に描写が実際の情動と比して冗長でテンポの悪さが目立ち、不可解さ・奇妙さがもたらす不気味さ・不安定さを損なっている。また、おそらく恐怖の象徴・根源としての印象を強くするために選ばれた、タイトルにもある「ヒクイドリ」の存在がストーリーの中で必然性がないというか、説得力に欠けていてやや浮いた存在となり、恐ろしさの集中を発散させてしまっている。
ややネタバレを含むが、大筋としては異なる世界線、あったかもしれない世界との運命争奪合戦という話で、その世界間の仲介的存在の野望を果たすために、主人公たちは怪異に侵食されていく。この大胆なプロットをホラーミステリーとして扱い丁寧な伏線を配置して帰着させた点では、読み価値があるといえるが、冗長な感はぬぐえない。